2014年1月13日月曜日

真空管の響き

この正月、我が家の2階にセットしてあるステレオのアンプの調子が悪く、以前から所有していた真空管アンプに繋ぎ替えた。ここでのシステムはCDとDVDの再生ができればよいと、構成はCD/DVDプレイヤーのアウトプットからこの真空管のパワーアンプに直結、そのままスピーカーへ繋がるというシンプルなもの。音楽だけでなく、映画もこのシステムで見る。

この真空管アンプ、80年代半ばに友人から3万円で譲り受けたもので、メーカーはわからず、多分自作されたアンプと思われる。トランスは全てTANGO製でなかなかしっかり作られている。

当時はメディアもレコードからCDへ移行し、録音もデジタル技術がどんどん進歩していて、音楽もシャープなリズムにより複雑なアレンジが流行っていた頃で、音楽を聴く機材もデジタルサウンドに呼応すべく様変わりしていく時代。真空管アンプは半ば懐古趣味的に手に入れ、マイルス・デイヴィスのプレステージ時代の作品などジャズやラテンの古い音源を聴く時に繋いでみたりしていた。しかし一時的に使っていただけで、ずっと持ち続けていたものの物置の片隅に眠りっぱなしだった。

真空管アンプはFETのものより、マイルドで優しい音がするというのが一般的な評価だが、確かに音の解像度は低いかもしれないが、楽器同士の音のつながりが独特だと思う。このアンプ、出力はわずか3Wと小さいが能率のいいスピーカーと組み合わせればしっかり音量も稼げる。僕らの世代は音楽がアナログからデジタルへ移行する時代(音楽だけではないが)を過ごしているので、何もかもデジタルでとなるといささか抵抗がある。まあ僕は特にアナログ志向が強いかも。いまだにメインの音響機器は30年近く前の機材で、レコードも再生できるようにセットアップしてあるし。

が、この歳になって冷静に考えてみると、はたして目をつぶって鳴っている音が真空管なのかFETなのか聞き分けられる自身はハッキリ言って無い。というのも音楽の現場で長く耳を酷使してきたこともあって、難聴気味であるだけでなく、耳鳴りも激しい。耳鳴りと同じ周波数の音はなかなか聞き取りにくく、それはかなり高い周波数の音なのだが、お湯が沸いてシューッ!といってる音とか、タイマーが出すアラーム音とか、すぐ横で「ほら、アラーム鳴ってるじゃん?」と言われても、まるっきり聞こえないなんてことがある。

さあ、そうなると、友達とCDなど聴いていて「これっていい音だね~」なんて簡単に言えなくなってくる訳だ。自分にとって「いい音」の基準はいつも持ってはいるが、これが他の人と共有できるかは定かでない。そんなんで真空管とFETの音を聴き比べられるのか?となる。自分の中でハッキリ言えるのは真空管の音は「耳に優しい(刺激が少ない)」ということくらいだろうか。

ただ、不思議なもので、日が暮れて部屋も少し暗くなって外の音も静まりかえる頃、この真空管の光りとともに音楽を聴くと、なんとも滑らかで優しい音に聞こえてくる(気がしているだけか?)。レコードもターンテーブルの上で回る溝をカートリッジの針がトレースしているという現象を見ている事で、何か別な要素が働いて「いい音だなぁ」なんて感じているのかもしれない。

まあ所詮「いい音」とは主観の問題なので、絶対的価値は限定はできない。ミュージシャンにとっての現場の音、楽器と楽器の音が同じ空間で融け合う感覚にかなうものは無く、いい音よりもいい音楽を見極める方がはるかに大事な感覚な訳だが、ついついこの真空管によって再生される音にはなにか特別な想いを込めてしまう自分がもどかしい。

2 件のコメント:

  1. 秋田の田中です。2014年1月14日 11:49

    秋田の田中です。そうですよね、私もなぜか真空管アンプの音が、よく聞こえてしまいます。ですので、古いLUXのアンプを捨てられないでいます。ギターアンプの場合は、真空管だと圧倒的に音圧が違うのが聞いてもわかるのですが、ステレオだと、聞きわける自信ないです。さらに、ステレオ用でもギター用でも、真空管だけ別メーカーに交換すると音が変わる、と皆さん言われますが、それも聞きわける自信がありません。

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  2. Michiaki Tanaka2014年1月14日 15:39

    コメントありがとうございます。この冬の秋田は雪も多く、寒さも厳しそうですね。みなさんお変わりありませんか?

    僕は音よりも真空管のあの佇まいにやられてる感じで、視覚的要素が聴覚に及ぼす影響が大きいかと思っています。シーンとした雪景色の中、暖かい部屋で真空管アンプで音楽を聴く、なんて想像しただけでイメージ膨らんじゃいますねぇ。

    隣の館山にコンコルドという喫茶店?があるのですが、その店主の佐久間駿さんは世界的に有名な真空管アンプの制作者です。店には見た事もないような真空管が並んでいますが、「あの一曲」のためにアンプ作っちゃうって人で、そのルックスからグッと引き込まれる感じなのですが、よかったらググってみてください。

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