この記事はコアなチャリンコネタで、且つ長〜い内容なので、自転車に興味の無い方パスしてください。
僕にとって競技用自転車のフォームやペダリングはある意味永遠のテーマ。プロでも全ての選手が同じフォーム、ペダリングスキルで走っている訳ではない。正解は個人々々違うものかもしれない。僕は50歳を超えて、楽器を演奏する際の理想的な姿勢というものをよく考えるようになった。加齢とともに音の出し方も変わるとはいえ、エレクトリックな編成ではそれなりのヴォリュームを要求される。そこで効率よくパワー(音量)を出しながら疲れにくく、かつ自由なパフォーマンスをするにはどうしたらいいのか?
前述したこーぢ倶楽部にてロードレーサーの乗り方を学びながら、身体の使い方に大きなヒントを得ることが出来た。自転車の乗り方と楽器の演奏方法(打楽器の叩き方)は一見全く違う運動だが、いずれも近年よく取り沙汰される「体幹筋の使い方」が要だと気がついた。そこを中心に身体の使い方を意識すると、自ずと効率良い奇麗なフォームが浮かび上がってくる。おかげで最近は随分と楽に演奏できるようになってきた。
さて現在、3大ツールのひとつブエルタ・エスパーニャが開催中である。この写真は第12ステージで優勝したフィリップ・ジルベール選手。世界チャンピオンの証、アルカンシェルを纏った彼は31歳、自転車選手としてはベテランで脂ものっている時期である。このステージ、ゴール前がわずかながら上り坂ということで優勝のチャンスを狙ってゴール手前11kmを行く姿。ゴールまでの位置取りを争いながら時速50kmを超すスピードで走っているところ。彼はいわゆるパンチャーと呼ばれるタイプの選手だが、平坦なスプリントよりも短い上り坂でのスプリントで爆発的な力を発揮する。この日もゴール前の短い上り坂を活かして、先攻する選手をぶち抜き優勝した。
TV放映の為、バイクの後部座席にカメラマンが乗って選手を追走しながら撮影する。この日の優勝候補として真横から抜かれた映像となったが、この映像がなんとも興味深い。僕はひたすら美しいフォームだと思うのだが。
こーぢ倶楽部のレクチャーで、康司さん現役時代のフランスでのレースの映像を見ながら理想的なフォームの解説をしてくれる。そのレース内容は、ジルベール選手が集団からアタック、そのアタックを追って康司さんとコフィディスの選手二人が集団から飛び出す。映像はゴール手前10km程前だっただろうか?先行するジルベール選手とそれを追走する康司さんの画像が何度も交互に映し出される。
現役時代、ガチャ踏みだった?康司さんは、ジルベール選手がいかに効率のいいフォーム、ペダリングをしているかを訴える。なんと康司さんと一緒に前を追うコフィディスの選手もガチャ踏みで、ジルベール選手はスピードにのったまま上体が動かないのに対して、二人はペダルを踏み込む度に上体が左右に揺れる。その様子の差は素人が見てもわかる。プロのレース、早く走れるならフォーム、ペダリングともどんなスタイルでも構わないとも思うが、効率のいいフォーム、ペダリングによるパフォーマンスは長時間強いパワーを出す際にじわりじわりと差がでる様に見える。結局2人はジルベールに追いつく事無く、集団から1人上がって来た選手と3人で2位争い。康司さんは4位でフィニッシュした。(これでももの凄いことだけれど)
現代の競技用自転車は、ペダルとシューズをスキーと同様ビンディングシステムで固定するのが常識。そこにプロとアマチュアの違いは無い。このビンディングペダルの特徴は、ママチャリと違って足とペダルが固定されているおかげで、踏み込むだけでなくペダルを引き上げることが出来る。よって踏み込む足と反対側の足を引き上げることで股関節まわりの多くの筋肉を大きく使うことによって、より強い力をペダルに伝えることができるという訳。
今一度ジルベール選手の写真を見て欲しい。左足、足首の力が抜けて大腿でペダルを引き上げる様子がハッキリと分かる。証拠に足のつま先が真下を向きかかとが持ち上がって、大腿からペダルを引き上げている。この力の加え方をすると自転車は自ずと直立しようとして、自転車自体が真っすぐ安定して進み、身体も真っすぐブレず体幹が安定して股関節周りの筋肉の動きをダイレクトにペダルに伝えられるのである。踏み込むだけのペダリングをしていると右、左と踏み込む側に体重が乗ってしまい、自転車も左右にブレてしまう、これがガチャ踏み。これは3本ローラーに乗ってパワーをかけてペダリングしてみると、誰にでもすぐに分かる。
そしてもうひとつ注目すべきは、身体の大きさとフレームの大きさの比率である。ジルベール選手は身長179cm、ヨーロッパ人としては標準的かと思われる体格だが、フレームサイズは身体の大きさに対して日本の常識?からするとちょっと小さめに感じないだろうか。フレームのサイズは定かではないが、ヨーロッパのレースを良く観察すると、フォームに応じたフレームサイズは意外と小さい。そしてサドルとハンドルの落差が大きいのはヨーロッパ人の手足が長いからだと説明されるが、果たして本当にそうなのか?効率よくペダリングする為の姿勢というのは自ずと決まってくるもので、この前傾姿勢にも根拠がある。それは全て体幹筋の強さが要になるが、自分でも鍛え方次第でこういうフォームをとれるハズなのだ。
この写真では、ゴールまで距離も少なくスピードもかなりのっていると思われ、サドル前方に腰が位置しているが、多分この時点では、ハンドルを握る手にも力は入っておらず腕はリラックス、力は体幹筋を中心に、ペダルを回すために踏む力と引く力のバランスが効率よく伝わっていると思う。ここからゴールスプリントで一段と加速する時には肩から腕にも力が加わって、よりパワフルな走りとなると考察する。しかしジルベール選手はゴール前のスプリントでもあまり自転車を大きく振らず、姿勢が崩れない。
奇麗なフォームに見えなくても速い人は速い。個人差はあるものの、結局2輪という不安定な乗り物の上でいかに強いパワーをスピードに変えるかは「体幹筋」が要だと見えてきたが、それを鍛えるには努力も伴うし、理想のかたちをイメージすることも大事だろう。しかし美しいフォームには理由だけでなく、結果も伴うので、やはり諦めずに目指したいものである。楽器の演奏にしろ、自転車の乗り方にしろ。