2014年1月17日金曜日

フィルムドラマティーク第二弾「ミツバチのささやき」

映画ネタを記事にしようと企てた新コンテンツ。スローペースながら冬場はいろいろと映画を見たいと思う自分だが、その第二弾にもってきたのは昨年秋のRomanticaのライヴでもちょっとだけ触れたスペインの映画監督、ビクトル・エリセ。彼の作品「ミツバチのささやき」が今回の主題。

スペインはバスク地方出身のビクトル・エリセ監督。この作品が1973年。この後1982年に「エル・スール」、1992年に「マルメロの陽光」を発表。10年に一作しか撮らないと言われた監督だが、その後2002年、2012年と複数監督によるオムニバス作品を撮っているだけで、長編の作品わずか3作のみ。年齢は73歳である。

この3作しかない長編作品、どの作品もなんとも味わい深いものばかり。僕はリアルタイムでロードショーされた「エル・スール」をきかっけにこの監督を知ったのだが、最初の長編作品「ミツバチのささやき」はなんとも印象的な作品である。もちろん当時リバイバルロードショーされ、映画館で何度か見た作品である。

スペインと言えば乾いた空気に灼熱の太陽と、その光りと陰が織り成す芸術、文化が象徴的だが、ビクトル・エリセの作品は雨や曇りの空が全体を覆って、しっとりとした質感が特徴的である。この「ミツバチのささやき」の舞台はスペイン北部カスティーリャ地方、スペイン内戦の終わる1940年頃の設定だが、スペイン内戦後の国政を微妙に批判もしている。映画がリリースされた年代を含めスペインの内政に関して詳しく書くとキリがないので、その辺は調べるなりちょっと勉強してほしい。Romanticaの「Pablo X」に描いたスペインの歴史情勢と重なる部分も大きい。

で、内容はやはり見てもらわない限り感じてもらえないので、あくまでオススメ映画としておこう。

主人公の少女アナの感受性に、誰もが子供時代に感じ、心に思い描いた微妙な事象にオーバーラップさせて共感できるはずだ。というか、もし彼女の感じている事に共感を覚えないとしたら、子供時代の微妙な心の動きを忘れてしまったつまらない大人になってしまっているのだと少なからず焦るべきだ。ビクトル・エリセ監督の映画はいずれもこの微妙な心理を描いている。「エル・スール」もこの点で共通する描写が見事である。どちらがオススメかは甲乙つけがたいので、是非こちらも見ていただきたい作品である。

ただ、いずれも映画を見終わったあと、全てが明瞭に解決され、スッキリ気持ちよく映画館を出てこれるハッピーエンドな映画ではないので悪しからず。だからと言って、ドカンと重た〜い映画でもない。ただ自分が普段の生活で失いかけた感性、忘れかけた何かを思い出させてくれ、考えさせてくれる素晴らしい映画であり、スペインの歴史、内政を知ればまたその意味合いも深く感じることができるだろう。

僕が思うヨーロッパ映画の特徴、ハリウッド映画との大きな違いは、あくまで日常が舞台となる事だと思う。時代背景はそれぞれ異なるとしても、日常における人々の微妙な心理描写が主題で、映画というものがあくまでフィクション(もちろんドキュメンタリー映画というのもあるが)だとしても、身近で現実的 な人間と人間の間に揺らぐ心の動きを描くことで、国籍、人種を超えて誰しも人間として物事をどう感じるかをテーマにするヨーロッパ映画、古い日本映画がヨーロッパでウケるのも同じ様な要素を多く持っているからだと思う。

3 件のコメント:

  1. さいとーまさき2014年1月20日 10:47

    浜辺で上映された映画を見つめる彼女のまなざし、忘れられないなあ。 

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  2. アナとお姉さん、ピアノをポロンと奏でるお母さん、養蜂家のお父さん、個々の世界感が淡々と。晴天を避けてフィルムを回していたのだろうかというくらいフラットな風景。どのワンシーンを切りとっても絵画的。映画なんてほとんど見ない私でもこの空気感にはしびれます。我が家のどこかにあるカビの生えかけたVHS、また見てみようかなぁ。

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  3. コメントありがとうございます。さすがにこの映画に触れたことのある人は多いかな?
    ビクトル・エリセ監督の新作、まだ期待してるけど、映画一本作るエネルギーって、計り知れなく大きいのか。音楽ならシンフォニー書くくらい大変なのかな。しかも名画となると・・・。

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